iPS細胞由来軟骨細胞と免疫の関係

iPS細胞由来軟骨細胞と免疫の関係

以前、妻木教授らのグループが膝軟骨疾患の臨床試験を行うことについて書きました。以前の記事の参考文献ではSCIDという免疫反応が起こらないようにした動物を使って実験を行っていました。しかし、実際には免疫が機能している人に入れるので大丈夫なのかと不安になったかもしれません。今回はiPS細胞由来軟骨と免疫の関係について書いていきます。

iPS細胞由来軟骨細胞と免疫の関係

結論から言うと著者たちはiPS細胞から誘導した軟骨のHLAにABC型しかないことや免疫細胞に反応しにくいということを発見しています。

また、軟骨細胞は免疫細胞と物理的に接しにくいと言う特徴があります。なぜなら、軟骨細胞は細胞外にスポンジのような役割をするコラーゲンⅡを放出することが知られているからです。

このコラーゲンⅡにより免疫細胞が軟骨細胞のところまで行く事が出来ません。

この研究を知るための肝となるHLAと呼ばれる分子について解説していきます。

HLAとは

HLAとはヒト白血球型抗原のことでABC型とDRDQDP型の2種類があることが知られています。

ABC型はA,B,Cの組み合わせを持っており、DRDQDP型はDR,DQ,DPの組み合わせを持っています。さらに、それぞれが何種類ものサブタイプを持っているためHLAには数万種類のタイプが存在します。

免疫細胞はこのHLAが自分のものと合わない場合に攻撃を始めます。そのため、細胞を移植をするときにはHLAのタイプが合致しているかが重要となります。

軟骨細胞のHLA

以前から軟骨細胞にはHLAのABC型しかなく、免疫反応を引き起こしにくいだろうということが知られていました。

著者たちはHLAがiPS細胞由来の軟骨細胞でどうなっているか確認することにしました。その結果、人から採取した軟骨細胞とiPS細胞由来の軟骨細胞で違いがないことを確認しました。(DRDQDP型は発現してない)

さらに、軟骨損傷を起こしている場所に軟骨を移植することを想定し、IFNγにどのように反応するか見ました。

IFNγの特徴として炎症を引き起こすことと、HLAの発現を高めるサイトカインであることが知られています。ちなみに、軟骨損傷を起こしている部位ではIFNγにより炎症が起こっていることが知られています。

IFNγとの反応を見た結果、iPS細胞由来の軟骨細胞の方が採取してきた軟骨細胞よりもDRDQDP型の発現が弱いことが分かりました。

このことからiPS細胞由来の軟骨細胞の方が移植をしたときに免疫拒絶を受けにくいと考えられます。

PBMCと軟骨細胞

次に軟骨細胞を免疫細胞と反応させた時にどうなるのかを検討しました。

PBMCと呼ばれる血液中の細胞と軟骨細胞を一緒に培養する方法により検討しています。

PBMCは末梢血単核細胞のことでNK細胞やT細胞と呼ばれる免疫反応を引き起こす細胞が含まれています。

PBMCは自分と異なったHLAの細胞に反応して増殖すると言う性質があります。つまり、軟骨細胞が異物と認識されるとPBMCが増殖します。

この実験の結果、軟骨細胞はPBMCの増殖を引き起こさない事がわかりました。また、軟骨細胞はNK細胞の活性化も抑えることが分かりました。

このことからiPS細胞由来の軟骨細胞を安全に移植できる可能性が高いことが考えられます。

まとめ

以前の研究で若いドナーの細胞を移植した方が免疫拒絶が起こりにくく、レシピエントの軟骨と同化し易いことが知られています。

著者はiPS細胞が若いドナーの軟骨の様に機能した可能性を指摘しています。

また、本来iPS細胞を治療に使うとしたらHLAを患者ごとに合わせないといけません。しかし、今回の研究から軟骨細胞が物理的にも化学的にも免疫反応を引き起こしにくい事が分かったため、HLAを合わせる手間をかけなくても済む可能性が示されました。

つまり、軟骨細胞の他家移植が可能と言う事です。これにより一人から採取した細胞を使って何人もの患者を治療できるため再生医療の商業化も見えてきました。

良い結果が出ることを願っています。

参考文献

Integration Capacity of Human Induced Pluripotent Stem Cell-Derived Cartilage

Limited Immunogenicity of Human Induced Pluripotent Stem Cell-Derived Cartilages

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