赤ちゃんが因果関係を学習する方法

赤ちゃんが因果関係を学習する方法

私たちはどのようにして因果関係を学習するのでしょうか?自分が何かをした時にどのような結果が起こるか予測できると自分の利益になりますし、周りの人たちの利益にもなります。この問いに答えるために赤ちゃんがどのように因果関係を学習するのかを見ていきましょう。

赤ちゃんが因果関係を学習する方法

この記事は哲学する赤ちゃんを参考に書いています。

幼児は長い間直接的な体験や感覚、知覚しか感じておらす、現実と空想の違いを区別できていないとされていました。

注;ここでいう空想の世界のことを事実でない過去、現在、未来を思い描く能力として反実仮想と言います。

私たちが行なっている判断や決定、感情は反実仮想の影響を強く受けています。

例えば飛行機に1分だけ間に合わなかった人と1時間間に合わなかった人では1分だけ間に合わなかった人の方がより落胆します。結果はどちらも同じなのですが反実仮想が働き、落胆の程度は異なっています。

こうした反実仮想の役割というのは進化論で説明されており、〜していれば、と言った後悔が未来に向けた働きかけになり、豊かな未来を作り出す手助けをしてきたとされています。

著者は反実仮想が進化の過程で有用だったとするならば幼児にもその能力があるはずだとして様々な実験を行なっています。

物理的因果関係を学習する

生後15ヶ月の赤ちゃんに熊手を渡すと適当に振り回したり、周囲のおもちゃを遠ざけてしまいました。

一方、もう少し成長した赤ちゃんではじっくりと熊手を見つめ、周囲のおもちゃを引き寄せるために使いました。

このことから、赤ちゃんが成長するにつれて、熊手がおもちゃを引き寄せる可能性を思い描くことができるようになった、つまり未来を想像する力を身につけたと考えられます。

子供の反応が大人と違うとところは子供は現実にも空想にも感情的になってしまいコントロールが効きにくいというところです。15ヶ月の赤ちゃんでは反実仮想をするよりも熊手自身に感情的になってしまった可能性もあります。

では、私たちはどのようにして反実仮想を描き、現実を変える方法を知るのでしょうか?

その答えは因果的な思考と密接に結びついているとされています。思い描いた未来のためにどうすればいいか考え、現実の世界に働きかけます。

進化の過程でこうした思考が培われてきたのであれば、幼児にも因果的な思考ができるのではないかと仮定して著者は実験を行なっています。

実際に子供に馴染みのない「何で夜になると暗くなるの?」と質問すると「みんなが寝るためだよ」といった未熟な答えが帰って来るのですが、子供に馴染みのある「なんで冷蔵庫を開けたの?」や「三輪車はなんで動くの?」と言った質問には「ジュースを飲むため」や「足で漕ぐから」といった因果関係を説明して答えることができます。

心理的因果関係

物理的因果関係とは別に心理的因果関係というものがあります。相手の気持ちを推察して因果関係を構築する能力のことです。

子供は空想の世界で友達を作ることをします。

例えばトイ・ストーリーのようにオモチャを自分の友達のように扱います。

こうした傾向は今まで見てきたような物理的因果関係ではなく心理的因果関係を構築するために役立ちます。

例えば2歳児を対象にした実験があります。A君は箱の中のおやつを取ろうとしていて箱の中にはクッキーかブロッコリーが入っていると伝えます。その後、A君がガッカリした理由を尋ねると「ブロコリーが入っていたから」と相手の心理を読み取って合理的に答えることができます。

こうした心の理論を扱えるようになることで人の心に働きかけるのが上手くなります。人の心が分かる子は社会に上手く溶け込むことができると同時に嘘も上手くなります。

また、他人だけでなく自分の心にも上手く働きかけれるようになり、自分の感情や思考、行動をコントロールできるようになります。

子供が空想の世界で友達を作るように大人はフィクションによって空想の世界を作り上げます。

この場合、作家は今までの自分自身の経験や他人が経験した情報を蓄積したデータベースの中から因果関係を作り上げていきます。

そのため、子供のようにあらゆる可能性を見つけるための自由奔放さと大人のように規律を持ってストーリーを組み立てる両方の脳を働かせなければなりません。

こうした作業ができるのも子供の頃に様々な反実仮想を作り出し、自分の中で因果関係のデータベースを作り上げているからだと考えられます。

赤ちゃんは因果関係をどのように認識するのか?

赤ちゃんが因果関係を理解していることは分かりましたが、どのように因果関係を構築するのかを考える時に難しい問題があります。

Aが起こったからBが起こるというのはAがBを引き起こしているのではなく、Aが起こった後にBが起こる可能性が高いことを示しています。

このように因果関係を構築するためには統計的なデータを蓄積しなければなりません。実際に赤ちゃんはこうした統計的計算を無意識のうちに行なっていることが分かっています。

例えば赤ちゃんは「あ」という音の後に何の音が来るのか予想しているため、珍しい「あろ」という音になった時に強い反応が見られました。

赤ちゃんは因果関係を構築するマシンのように自分が何をやったらどうなるかということに興味があります。

何か物を与えられると一人で匂いを嗅いだり、叩いたり、舐めたりしてどうなるかを実験しています。

自分で学習する以外にも他人の行動を見て学習することもできます。人が何かの目的を持って行動していることを認識し、その結果を観察しています。

心理的因果関係についても周囲の人の交流や観察し、相手をどのように操っているかを見たり聞いたりすることで学習していきます。

実際に兄弟の知能テスト、口頭テストでは兄の方が成績がいいのですが、心の学習については弟の方がいい成績を出すことが分かっています。

これは弟の方が周りの人達をよく観察し、言葉の意図を読み取って自分に足りないスキルを補おうとしているからだと思われます。

知性について2つの説があります。1つは物理的因果関係の理解から生まれる複雑な道具の使用に着目したもの。2つ目は心理的因果関係から生まれる複雑な社会ネットワークの維持と文化の発展を重視するものです。

どちらも因果関係を重く見ており、私たちを人間らしくしているものの核心は世界の因果構造を学ぶ能力なのかもしれません。

参考文献

哲学する赤ちゃん

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