診断を謝らせる確証バイアス

診断を謝らせる確証バイアス

自分にとって都合のいい情報だけ受け入れていませんか?
➡︎そのような情報の集め方をしている人は確証バイアスに陥っています。

情報に対して自分の主観を入れず、ニュートラルな状態で受け入れないと取り返しのつかないミスをしてしまいます。今回は確証バイアスが医療の現場でも起こっているという論文について紹介していきます

診断を謝らせる確証バイアス

この記事は2009年にFranziska Tschanによって発表された論文に基づいています。

診断ミスはどのぐらいの頻度で起こっているのか?

➡︎過去のメタ分析によると診断ミスにより患者が死亡する確率は23.5%にも及びます。さらに、その診断ミスの70%近くは回避することができるものだということも分かっています。

この原因として患者の治療が緊急性を持っていることやコミニケーションの問題、人の持っているバイアスが考えられています。

今回の論文ではバイアスに注目して調査しています。

どのようなバイアスがあるのか?

➡︎自信過剰、ヒューリスティックバイアス、楽観主義、確証バイアスなどがあります。

特に確証バイアスが問題とされています。

確証バイアスとは?

➡︎一度立てた仮説に基づいて選択、解釈、情報の記憶にバイアスがかかってしまうことを言います。

このバイアスにより自信過剰になったり、楽観的になったり、ヒューリスティックバイアスが起こると考えられます。

今回の論文では緊急性の高い状況の時にどのようにチームのコミニケーションや個人のバイアスが診断ミスに影響するのかを調べています。
特に確証バイアスやトランザクティブメモリーが判断を鈍らせている原因ではないかと仮説を立てています。

著者たちは研究を進める上で3つの仮定を立てています。

  1. より多くの診断に関わる情報を集めた方が正確な診断ができる
  2. 明確な推論を示したグループの方が正確な診断ができる
  3. 複数の人に聞こえるように話し合いを行った方が正確な診断ができる

調査方法は下記のようになっています。

53人の医師に20個のグループを作ってもらい、患者の病気を診断するシュミレーションを行います。

マネキンを使い、体温や血圧、脈拍などの基本的な情報や過去の治療経験、どうして今の症状が起こったのかなどの情報が与えられます。

しかし、与えられた情報だけでは正確な診断ができないように情報が制御されています。

患者に話を聞くこともできますし、聴診器での検査が行えるようにもなっており、実際の現場と同じような環境になっています。

また、患者に一番接する機会が多い看護師に患者の情報が与えられています。看護師は話し合いが行われている周辺に待機しており、医師の要求があった場合に情報を提供できるようになっています。

このような状況で各グループが診断を下します。

結果

30%のグループが正確に診断でき、40%のグループが看護士からの情報を基に正確な診断ができ、30%が間違った診断をしました。

また、上記の3つの仮定と正答率に関係があるのか統計的な分析を行なっています。

その結果、情報の多さと正答率には相関がなく、1つ目の仮定は立証できませんでした。
また、明確な推論を示したグループと複数の人に聞こえるように話したグループは正答率に相関があることが分かりました。

仮定1;より多くの診断に関わる情報を集めた方が正確な診断ができる

過去の論文で不完全なデータをもとに判断を下すと誤った決断をしてしまうことが知られていました。しかし、今回の調査では情報量と判断の正確さに相関はありませんでした。

仮定2;明確な推論を示したグループの方が正確な診断ができる

専門家同士の話し合いでは暗黙の了解で推論の根拠を飛ばしてしまうことが分かっています。そのため、明確な推論を示さずに話し合いが進んでしまい間違った診断を下すと考えられます。

今回の調査では明確な推論を示すほど正確な診断ができたという結果が得られています。

☑️心理的安全を守ることも大事
今回のように初めての人たちでグループを作った場合には心理的に安全性が守られていません。そのため、相手を否定することが言えず、診断が間違った方向に行ったときに指摘できないということが起こります。

仮定3;複数の人に聞こえるように話し合いを行った方が正確な診断ができる

大きな声で部屋中の人に聞こえるように話すことで他のグループの人たちも診断プロセスに関与でき、助言をもらうチャンスが増えたと考えられています。今回は周囲にいた看護師を話し合いに巻き込むことができたため正確な診断ができました。

確証バイアスとトランザクションメモリー

今回、30%が間違った判断をしてしまった原因として確証バイアスとトランザクティブメモリーが考えられています。

確証バイアスの危険性

確証バイアスとは

自分が信じていることに基づいて選択、解釈、情報の記憶にバイアスがかかってしまうことを言います。

例えば「血液型がA型の人は几帳面」ということを信じている場合、たまたまA型で几帳面な人を見つけると「血液型がA型の人は几帳面」という方程式が絶対のように感じてしまうことです。A型で几帳面でない人が数多くいるにも関わらずです。

今回の調査でも確証バイアスに捉われなければ正確な診断ができるような仕組みになっていました。

トランザクティブメモリーの危険性

トランザクティブメモリーとは

誰が何を知っているかを記憶していることです。
組織を機能させるためにそれぞれの担当を決めておくことで効率よく情報をやりとりできるようになります。

今回の調査では専門の医師の発言に頼ってしまい、患者の情報をまとめたチャートを見ないということが起こっていました。

トランザクティブメモリーに対して確証バイアスがかかっていたと考えられます。

判断を誤らせた他の要因

他にも間違った診断をした原因として構造的に形成されたコミニケーションが考えられています。医療のような多様で複雑な状況に適していません。

そのため、理論を明確にし部屋にいるグループ以外の人たちにも聞こえるように話し合いを行ったことで正確な診断ができたとしています。

まとめ

✔️今回は確証バイアスやトランザクティブメモリーによって判断を誤らせてしまうという研究について紹介しました。

☑️確証バイアスをなくすことはかなり難しい
自分に都合のいい情報ばかり集めているのか、たまたま都合のいい情報が真実なのかは判断できません。

今回は理論を明確にすることと、他人からの助言を貰いやすくするという方法で確証バイアスを防げるという内容でした。

意見の違う人からの情報は自分を否定されているように感じますが、確証バイアスが働いてるかもしれないと気づくチャンスになるかもしれません。

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