重症下肢虚血と再生医療
血管が閉塞する病気の人は全国で40〜50万人いるとされています。その中でも症状が重くなった場合に重症下肢虚血という病気になります。糖尿病とも大きく関わりがあり予防が重要な病気です。今回はこの病気に対する再生医療について書いていきます。
重症下肢虚血と再生医療
重症下肢虚血とは血管が閉塞して下肢の筋肉に血液が供給されず痛みが出る病気です。
原因として高血圧や糖尿病、喫煙がありますが、中でも糖尿病が大きなリスクファクターとなっており、重症下肢虚血の7割が糖尿病とされています。
初期の段階では痺れや疼痛などが起こり、長い距離が歩けなくなります。
この病気が進むと皮膚に潰瘍ができたり、壊疽していき治療できません。最悪の場合には切断することになります。
初期の段階では運動療法や薬物療法が行われ、進行してくると血管内治療や外科的バイパス術が行われています。
血管内治療
血管内治療には次の3つがあります。
- 血管形成術…カテーテルにより動脈を広げる方法
- ステント留置…動脈を拡張するためにチューブを挿入する方法
- アテローム切除術…狭くなった動脈を切り取る方法
血管内治療は局所麻酔で低侵襲ですが病変部位によっては成績が悪いという報告がされています。
外科的バイパス術
外科的バイパス術とは閉塞した血管を迂回する血管を人工的に作成することを言います。
適用範囲が大きく効果は大きいのですが、全身麻酔が必要で高い侵襲性のため患者の負担が大きくなります。
また、感染症による高熱や腫れが引き起こされる可能性があります。
現在の治療方法の課題
血管内治療にしろ外科的バイパス術にしろ上記のような欠点があります。
さらに、重症下肢虚血の予後はあまりよくなく発症 1 年後の死亡率は 25%、下肢の切断率は30%とされています。
また、現在の治療方法が全てのケースで適用できるわけではなく、不適応の場合は保存療法をするしかなく重症化する場合が多いとされています。
このような課題を解決するために世界中で遺伝子治療や細胞治療が開発されています。
新たな治療方法
遺伝子治療
遺伝子治療とは治療に関係する遺伝子を体内に入れ、体内の細胞にその遺伝子を強制的に発現させるという方法です。
現在ではHGF、FGF、SDF-1の遺伝子を入れることで治療できないか研究がされているそうです。
海外での研究ですが日本のアンジェスやアステラス製薬が関わっているようです。
細胞治療
細胞治療とは治療に効果のある細胞を移植して病気を治療する方法です。
重症下肢虚血の治療に使われる細胞として下記のものがあります。
- 末梢血由来の単核球
- 他家臍帯由来の間葉系幹細胞
- 自家骨髄由来の赤芽球及び間葉系幹細胞
- 自家末梢血由来の単核球
- 自家脂肪組織由来の間葉系前駆細胞
多くは間葉系幹細胞と呼ばれる細胞で詳しくは下記の記事を参考にしてください。
こうした細胞から放出されるHGF、FGF、VEGFなどの液性因子が血管の再構築に関わり症状を軽減するとされています。
投与方法としては筋肉注射が多いようです。
しかし、患者によって臨床状態が様々で細胞治療の有効性を示す試験を成立させることが難しいという課題があります。
また、液性因子による治療を説明していますが、実際に移植した細胞が患部にとどまっているのかの確認も難しいようです。
まとめ
血管が詰まって足先から壊死していくというのはとても怖い病気です。
この病気の7割が糖尿病と聞くと糖尿病への認識も変わるのではないでしょうか?糖尿病の患者数が多く、みんながなってるから大した病気じゃない、という考えの人が多いように思います。
月並みに使われる言葉ですが生活習慣を見直すことは本当に重要だと思います。
新しい治療方法が開発されているとはいえ安全性や有効性の課題も多く、莫大な費用がかかることが予想されます。
健康があっての仕事ということを忘れないようにしましょう。
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