成功した起業家の心理を分析した論文

成功した起業家の心理を分析した論文

成功した起業家たちはなぜリスクを恐れずに挑戦できるのでしょうか?
➡︎起業家は自己効力感が高く周りを変えていけると思っているようです。

リスクの考え方はプロスペクト理論が役立つのですが、それだけでは不十分な様です。今回は2017年にDan K. Hsu によって発表された論文に基づいて成功をし続ける人たちのマインドについて紹介します。

成功した起業家の心理を分析した論文

リスクに対する心理学

➡︎リスクに対してプロスペクト理論と自己効力感という考え方があります。

プロスペクト理論…損失を過剰に避けたがる
例)サイコロを振って偶数なら1万円もらえる、奇数なら1万円払うというゲームに挑戦しますか?と訊かれた時に損失と利益が50%(同じ確率)なのにほとんどの人がやらないと答える。

自己効力感…自分が周りを変えていけるという感覚
例)自己効力感が高い人ほど困難なことにも挑戦していける。逆に低い場合には簡単なことにも挑戦できない

2つの理論は対立している

・プロスペクト理論→リスク回避的
・自己効力感→リスク追求的
自己効力感が高い人でもプロスペクト理論通り損失を避けたがるのか?というのが疑問になります

フレーミング効果とは?

➡︎プロスペクト理論の中で確認された現象で人は最終的な富や福祉ではなく、その時々の利益と損失をフレーミングして考えるというものです。

例)一度利益を出した後ではリスク回避的になる
人は人生全体での利益を考えれないため、現在の利益を守るため未来の成功よりも未来の失敗に敏感になります。そのため、利益を確定している状況からリスクを取るためにはより大きな収益が期待できなければなりません。
逆に一度損失を出した場合には未来の失敗よりも未来の成功に敏感になるためリスク追求的になります。

起業する際のフレーミング効果

フレーミング効果を起業する人に当てはめると一度起業に成功した人は再び起業しようとしない、一度起業に失敗した人は再び起業しようとすると考えられます。→仮説1

起業するときの自己効力感とは?

➡︎起業する際の自己効力感の測定にはEnterpreneurial self-efficacy(ESE)という指標が使われ、多くの研究で有効性が確認されています。(今回はややこしくなるのでESEを自己効力感と書きます)
起業に必要なタスクをこなせる能力があると感じているかを評価します。

自己効力感の高い人は困難なことにも立ち向かえる

困難なことを達成するとさらに自己効力感が高まります。
いくつかの研究では起業前よりも起業後に自己効力感が高まることが確認されています。
このように正のスパイラルが生まれ、再び起業するのではないか?→仮説2

2つの理論の境界条件があるのではないか?

プロスペクト理論と自己効力感の考え方は対立しています。

例)一度起業して成功した人は自己効力感が高まる→しかし、フレーミング効果により再び起業しようとはしない。
過去の研究では
・自己効力感が高いと自信過剰になりリスクを認識しにくくなる
・以前起業した人はその後も起業しやすい
などが知られています。
こうした結果から自己効力感が高いほどフレーミング効果が効きにくくなるのではないか?→仮説3

個人の感じ方で対立しない場合もあります

起業がうまくいったのは運が良かったから、と思っているのなら自己効力感が高まりません。そのためフレーミング効果だけが働きリスク回避的になます。

成功した起業家の心理(学生編)

仮説1;一度起業に成功した人は再び起業しようとしない、一度起業に失敗した人は再び起業しようとする。
仮説2;自己効力感が高いと再び起業しやすい
仮説3;自己効力感が高いほどフレーミング効果が効きにくくなる

オンラインで158人の大学の学生に対して匿名の調査を行いました。
起業するシュミレーションを通じて自己効力感やフレーミング効果を引き出し、その後の起業する意思を調査します。

✔️起業のストーリー
学生の50%が100円ショップを要求しているというデータがある。しかし、そのための資金を30%負担し、日常業務を行わなければならない。ただ、あなたはビジネスチャンスと捉え、情熱もある。

?低価格と品揃えの戦略を立てる
・低価格だと利益が減る
・品揃えを多くすると在庫コストがかかる
低価格で在庫を少なくするか、高価格で在庫を増やすか7段階で評価した時に何番を選ぶか?

?他のアンケートにも答えます
・4つの戦略的質問
・競争に勝つ戦略
・マーケティング戦略
・チームの構成
・財務に関する質問

✔️この結果を基に分析が行われフィードバックを返します。
この評価は適当でそれぞれの被験者に予め割り振られた評価がなされます。
➡︎これにより自己効力感や起業の能力があるという感覚などが引き出され4つのグループがつくられます。
さらに、もし起業してた場合には普通に10年働いた時に得られる分のお金(500000ドル)が手に入った、もしくは失ったと理由を加えて伝えます。
・自己効力感と起業能力の両方が高いグループ→能力が高かったからお金が手に入った
・自己効力感は高いが起業能力は低いグループ→運が悪くてお金を失った
・自己効力感が低いが起業能力は高いグループ→運が良くてお金が手に入った
・自己効力感と起業能力の両方が低いグループ→能力が低かったからお金を失った

これによりフレーミングが行われることになります

?今後起業する意思があるのかアンケートを行います
通常状態と評価後の意思を測定するためLiñán and Chen’s によって作られたアンケートを使用しています
➡︎通常状態の意思を測定するため、評価の2週間前に測定しています。
➡︎評価の後の意思を測定する場合は成功が与えられるなら、運があればなどが付けられてアンケートに答える様になっています。


?起業する意思を標準化するためのアンケート
下記の項目が起業する意思に関係することが知られています
・ポジティブさ
・性差
・目標を追求する能力
・起業の経験

この結果、自己効力感が低い人は起業に成功したとしても再び起業する意思は低いままでした。➡︎仮説1◎
また、自己効力感が高い人は自己効力感が高いほど起業する意志が強く、成功したとしても再び起業する意思が強くなっていました➡︎仮説2◎、仮説3◎

✔️この結果から自己効力感が高いとフレーミング効果が効きにくい事が分かりました。

?この結果の課題
学生を対象にしていたため、実際に起業して成功した、または失敗した人が起業するか分かりません。
➡︎そこで、65人の起業家を対象に実験しました。

成功した起業家の心理(実践編)

起業家には成功した人と失敗した人がいるので自己効力感が高い、または低いと考えられます。そうした起業家たちを対象に再び起業するかどうかの調査を行いました。

?起業のストーリー
ウィンタースポーツの産業で起業したとします。
➡︎利益を出すグループには5年後には普通に働いて20年分にあたる100万ドルで売却できると伝えます。
➡︎損失を出すグループにはうまくいかなくて閉店しなければならならず、100万ドルの損失が出ると伝えます。

?最初の調査と同様に下記の評価を行なった
・起業する意思
・自己効力感
・起業する意思の標準化に関するもの

この結果、過去の起業に成功した人(自己効力感が高い人)は再び起業する意思が高かく、利益が出る出ないに関わらず再び起業する意思が高いままでした➡︎仮説1✖︎、仮説2◎、仮説3◎

✔️この結果から、自己効力感が高い時にはフレーミング効果が負け、再び起業する事がわかりました。

仮説1が成り立たなかった理由として
・起業家は自己効力感が高いためフレーミング効果が消えた
・最初の実験でフレーミング効果が確認できたのは十分に自己効力感が高まらなかったから
という考察になっています。

まとめ

✔️今回の結果から、成功した起業家は自己効力感が高まり次のリスクにも挑んで行けることが分かりました。
➡︎成功するとフレーミング効果を打ち消すほどの自己効力感が得られるようです。

成功は連鎖する

以前の記事で一度成功した人はその後も成功しやすくなるというマタイ効果について書きました。
今回の結果からも分かるように自己効力感が原因かもですね。
下記の記事も参考にしてください。

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